多くの人が首をかしげたのではないだろうか。7月14日発売号の『週刊文春』で北海道日本ハムファイターズ・斎藤佑樹投手の醜聞が報じられ、大きな波紋を呼んだ。
同誌によれば、老舗出版社・ベースボール・マガジン社(ベーマガ社)の社長に斎藤が「鎌ケ谷の二軍練習場に通うためのクルマが欲しい」とねだり、2000万円強の値が付くこともある高級車ポルシェのカイエンを希望して受け入れられなかったものの、800万円を超えるマカンの新車を最終的に提供されたという。
さらに最新の7月21日発売号では、そのマカンに車庫飛ばし(車庫法違反)の疑いがあることまで報じられてしまった。
「ベーマガ社の社長は早大(早稲田大学)のOB。後輩にあたる斎藤とのコネクションを強固なものにしようと同社長は社内権限を使って斎藤の頼みを了承し、費用を工面した。ただ、これに関してはマカンを提供された昨夏の時点から早大、もしくは早実(早稲田実業高校=斎藤の出身校)野球部OBの間では一部で知られている話でもあった。もちろん話を知っている関係者たちは固く口止めされていたはずだったが……。
このタイミングで文春に漏れたのはベーマガ社の社内闘争がぼっ発したことにより、同社長に弾き飛ばされた人物が不満を抱いて情報をリークしたことが、どうやら原因のようだ」(事情通)
追記すると、ベーマガ社の関連会社でリースされたマカンが斎藤に又貸しされており、その流れを見れば確かに完全な無償提供というわけではない。一応、斎藤も月々のリース代を支払ってはいるという。とはいえ、文春の報道によると他にもベーマガ社や同社長が所有するマンションが斎藤に提供されたこともあったというから、その癒着ぶりには疑問を拭えない。「利益供与」とバッシングを受けても仕方がないだろう。
しかも、ここまで斎藤は一軍で満足な成績を残せていない。実際に一部の選手や球団関係者の間からは「学生時代の栄光にいまだ浸っている神経が理解できない」「今の成績と自分が置かれている立場を考えれば(クルマを)おねだりするなんて、あり得ない」といった声が聞こえ始めている。
チーム内での立場はますます悪くなりそうな感もあるが、この醜聞だけでは球団から罰せられることは現状でまずなさそうだ。それというのも暴対法に引っかかるような“黒い交際”ではない限り、ケースバイケースはあるにしても基本的には第三者から金品をプレゼントされても日本プロ野球界では罰則の対象とはならないからである。
●メディアとプロ野球選手の癒着問題
とはいえ斎藤はもちろんのこと、ベーマガ社・社長の行為も「NG」と言わざるを得ない。本来ならニュートラルでなければならないメディアに属していながら、ここまで1人の選手に肩入れするなどもってのほかである。しかも歴史のある老舗出版社のトップに、このような醜聞が発覚したのだから信用問題にも発展して然るべきだろう。
この斎藤のケースはかなり極端ではあるにせよ、一部のメディアとプロ野球選手の癒着は以前から問題視されている。一部のメディアが注目選手とベッタリになって迎合する、いわゆる“囲い込み”だ。ターゲットにした選手と馴れ合いの関係になるために社からゴーサインをもらって経費を湯水のごとく使い、タダで飲み食いさせて手懐けていくのが、その「セオリー」。昵懇(じっこん)になれば、報道では相手の都合の悪いことには目をつぶり、美辞麗句を並べ立てヨイショばかりを繰り返す。そして「他社はキミの悪いことも報じたがるから、必要最低限のことしか話さないほうがいい」と耳打ちするのである。
ある在京球団で長年に渡り広報業務に携わってきた関係者は、次のように嘆く。
「こういうやり方を好むのは、民放テレビ局の関係者に多いですよ。ひと昔前のように青天井とまではいかないにしても、まだまだ経費は新聞社よりもふんだんに使える。しかもテレビはスポーツ紙、夕刊紙、週刊誌などのメディアと違って、批判的なことはあまり報じない。選手にとっても悪いことに目をつぶってくれる都合のいい相手だから、すぐに心を許して接近してくる。だから民放局のスポーツ担当は他のメディアと比較すれば、比較的楽に大物選手たちと密な関係を築くことができる」
ただ、そこからがある意味で彼らの手腕が試されることになるようだ。
「その担当者たちはターゲットの選手から頼まれれば、場合によっては飲み食いだけじゃなく合コンのセッティングも請け負ったりする。言うまでもなく写真週刊誌の目を気にしながら、そのメンツはそれなりにレベルの高い女性を集めなければいけない。とにかく酒池肉林(しゅちにくりん)の接待攻勢で、さらに相手を落としにかかるわけです。こうなると取材というより、コーディネーター的な役割ですよね。果たして、これがメディアと言えるのかどうかは甚だ疑問ではありますが……」(前出の在京球団関係者)
●メディアが取材相手を囲い込む理由
それにしても一体なぜ、ここまでの利益供与を行ってまでメディアは取材相手を囲い込もうとするのか。それは相手が大物であるがゆえに現役時のネタ収集だけではなく、引退した後のことも見越しているからである。日本ハムの取材経験を持つ地方局の関係者は日本ハム・斎藤佑樹を例に挙げ、次のように打ち明けた。
「民放キー局は昵懇になった大物選手を引退後に専属の評論家として迎え入れたい。そうすれば、引退後も自分のところの局で仕事をしてもらえるから一石二鳥なわけです。後にし烈な争奪戦がぼっ発することを考えれば、やはり先に現役のときから“ツバ”をつけておきたい。
斎藤の場合も同じ。彼はプロ野球選手として決して大物ではないが、高校、大学時代からの実績を踏まえれば注目選手であることは間違いない。お客も呼べるし、腐っても“佑ちゃん”。あれだけのネームバリューがあれば、引退してもスポーツキャスターやタレントに転身できるから第二の人生も路頭に迷うことはまずない。メディアとしても斎藤というキャラクターは需要があるから使い勝手がいいんです。
だからベーマガ社の社長さんも含め斎藤に急接近したがるメディアは数多い。表には出ていませんが、民放キー局の関係者もさまざまな形で斎藤に接待攻勢を仕掛け、水面下でアプローチをかけていますよ。しかしながら斎藤はそういうところに賢いから1社だけの“囲い込み”にはなかなか乗ってこない。複数の社からの接待攻勢を巧みに使い分けているそうです」
●「囲い込み」の氷山の一角
それぞれの社の方針だから、第三者のこちらがとやかく指摘する権利はない。だが、このように「利益供与」や「接待攻勢」で選手を囲い込もうとするやり方はやはりいかがなものかと思う。しかも真の大物ならばともかく、斎藤のようなプロ野球選手としては一流と呼べないプレイヤーをこういう形で囲い込もうとすれば、その相手はまず間違いなく「自分は大物なんだ」と勘違いする。
それを受け入れてしまう選手も選手だが、中立な立場であることを忘れ、選手に肩入れし過ぎて批判すらできなくなるメディアの姿勢のほうが問題だ。日本ハム・斎藤の醜聞発覚は程度の差こそあれ、現在のプロ野球取材で実は当たり前のようになっている一部メディアによる「囲い込み」の氷山の一角と言えるのかもしれない。
(臼北信行)